かきかたの本

書き方の練習

雀荘と処女

 

処女の陰毛は幸運のお守りになるらしい。

いきなりなんなんだと思うかもしれないが、6月の終わり、このブログの最初の記事にこれ以上に相応しい話はない。気持ち悪いと思った人も、このブログから去る前に少しだけ聞いてほしい。なに、すぐ慣れるさ。ブログなんてものは総じて気持ち悪いものなのだ。

さて

処女の陰毛は幸運のお守りになるらしい。少し前に、深夜の雀荘のタバコの煙の霧の中、小汚いジャケットを着たギャンブラーに聞いた話だ。俺の知り合いにそんな小汚いジャケットを着たギャンブラーはいないし雀荘なんて行ったこともないのだが、その記憶だけは何故かいつの間にか頭の中にあった。あの場所が何処で、彼が誰なのか、そんなことはこの際どうだっていい。処女の陰毛は幸運のお守りになるらしいのだ。処女の陰毛なんてものは中々お目にかかれない代物だ。陰毛を見せないからこその処女である。そう簡単に手に入る物ではあるまい。ファンタジー的に言うと、フェニックスの羽やミノタウルスの角と同等のレアアイテムのように思える。なるほど確かに考えてみると、ご利益はありそうなものである。

この話、実は諸説があるらしく。というのも、下世話な話ではあるが、処女はタマと縁がないことから、弾に当たらない縁起物として、戦場へ向かう兵士たちが好んで戦場へ持ち出したことが始まりらしい。いかにも戦場らしい、俗っぽい話だが嫌いではない。

 しかし、ここで問題になるのが、彼らが一体何処でどうやって処女の陰毛を手に入れているのか、ということだ。現代社会で、処女の陰毛を手に入れることの出来るチャンスは、俺の知る限りそう多くはない。フェニックスの羽やミノタウルスの角は、重い鎧とやたらと大きな剣を背負い秘境へと向かえばいずれは手に入れられそうなものだが、処女の陰毛の入手方法に関しては俺には皆目検討もつかない。もし手に入るとすれば、それは過酷な戦場やこの世の果ての秘境ではなく、例えばもっと身近な、そう、妹の部屋、とかではないだろうか。

俺には妹はいないが、妹というものは総じて処女である。故に、妹が日々の多くを過ごす部屋には処女の陰毛が落ちている可能性が高い。となると、どうだろう、妹のいない人間が処女の陰毛を手に入れるには、誰かの妹の部屋で探すことが一番効果的ではないだろうか。効果的ではないだろうか、ではない。それはさながら、賽銭泥棒のようなものである。幸運どころか罰当たりだ。あと、普通にめちゃくちゃ怒られる。

 となると、処女の陰毛を手に入れる方法は、処女と仲良くなることくらいしかないように思えるが、ところがそうもいかない。だいたい、どれだけ仲良くなったところで「陰毛をくれ」なんて言おうものなら、もうその時点で全て終わってしまうだろう。そう考えると、処女の陰毛を手に入れることは処女そのものを手に入れること以上に難しいように思える。

 ここまで考えて、俺は処女の陰毛を手に入れることを諦めた。役が揃った。俺が上がりを宣言すると、他の3人は舌打ちをして牌を崩す。彼はため息をひとつ、ボロボロの財布から和紙に包まれた処女の陰毛を取り出す。昔を懐かしむような目で、それを見つめる彼が幸運に恵まれているようには俺には見えなかった。

簡単に手に入れることが出来ないからこそ、価値のある物がこの世界には多くある。それが世界の大多数の人間にとって無価値であったとしても、苦労して手に入れた人間にとってはかけがえの無い物となることもある。彼はその幸運のお守りを財布に戻し、代わりにしわくちゃの千円札を置いて席を立った。

時刻は深夜の1時を少し回ったところ。

いつの間にか、6月が終わっていた。