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かきかたの本

書き方の練習

チャーシューを最初に食べる人

日曜日の昼12時

ラーメン二国の店内は、カウンター席までほぼ満員に埋まるほど賑わっていた。

iPadを見ながらラーメンをすする中年男性と、作業服姿の若者の間のカウンターが一席空いているのを見つけ、俺はまっすぐにその席へと向かう。

 醤油ラーメンもやし抜き半メンで、それからチャーシュー丼

慣れた口ぶりで馴染みのバイト君にいつものメニューを頼み、腕時計を外して息をつく。冬の一歩手前ではあるが、ラーメン屋の店内は異様な熱気で溢れていた。この油が蒸発したかのようなねっとりとした湿度と、濃い醤油の匂いが、俺はたまらなく好きだった。

チャーシューニンニク、お待ち

隣の席に、ニンニクが乗ったチャーシュー麺が運ばれてくる。一気に周囲にニンニクの匂いが広がるが、それを気にもせず、作業服姿の若者は嬉々として、迷わずチャーシューを2枚、口へ運んだ。

ああ、彼は性欲が強いんだな。思わず微笑み、俺はそんなことを思う。

ずっと昔の記憶。くだらない話だ。何かのテレビ番組で、心理テストが紹介されていた。内容はシンプルで、ラーメンを食べるときに最初に何を食べるかでその人がどういう人間かがわかる、といったものだった。

その心理テストの答えも、その番組がどんな番組で誰が出ていたのかも、全く思い出せないが、覚えていることが2つある。元グラビアアイドルでタレントのMEGUMIは、チャーシューを最初に食べるということ。そして、心理テストによると、チャーシューを最初に食べる人間は、性欲が強いということだ。くだらない子どもだましな心理テストだ。しかし、その頃の俺はラーメンは最初にまずチャーシューを食べるし、性欲もバリバリの男子中学生であったということもあり、すっかりその心理テストを信用してしまったのだ。

その頃からか、俺はMEGUMIを妙に意識してしまうようになった。同じタイミングで、性欲が強い者というレッテルを貼られてしまった者として、仲間意識というのだろうか。何より、MEGUMIのあの、甘美に濡れた焼けた肌、Hカップオーバーでありながらしっかりと造形を保った重艶な乳房。その見た目や性格から漂うエロスは間違いなく本物で、それは麻薬のように俺の意識を朦朧とさせた。

俺は未だに、MEGUMIという甘美で妖艶な霧の中から抜け出せずにいる。そして、ラーメン屋でチャーシューを最初に食べる人を見ると、この人は性欲が強いんだなと思う。人の記憶というものは、案外、いい加減なものなのかもしれない。本当に大切な人の顔や思い出は、気づくと思い出せなくなっているくせに、こういったくだらない記憶は何年も残り続けている。

さて、そうこうしているうちに、隣の若者はニンニクチャーシューラーメンを食べ終え、それと同時に俺の前にもやし抜きの醤油ラーメンが運ばれる。俺は待ってましたとばかりに割り箸を取り、手を合わせ小さくいただきますと言い、そうしてまずチャーシューをスープに絡めて口へ運ぶのだった。

外に出ると、冷たい冬の風が心地よく俺の体温を下げてくれる。ラーメン二国の濃い醤油スープは、寝起きの昼下がりには少し重過ぎた。

帰ったら、久しぶりにMEGUMIのグラビアを見て抜くか。

不愉快な満腹感を胸と胃袋に抱えながら、重い雲のかかった暗い空を見上げて俺は、そんなことを思う。

彼女もまだ、チャーシューを最初に食べているのだろうか。