かきかたの本

書き方の練習

Moon

 

若いときの自分は、金こそ人生でもっとも大切なものだと思っていた。

今、歳をとってみると、まったくその通りだと知った。

 オスカー・ワイルド

 

 

長い、長い夢を見ているようだった

音のない世界

宇宙

星々の輝きは音もなく煌めき

そして僕に問う

生きる意味

世界の価値

 

この世界にはきっと、お金より大切な物がある

そんな言葉が口癖だった彼女は、重く暗い冬の夜に死んだ。愛する家族に囲まれることもなく、暖かく清潔なベッドの中でもなく。冷たく固い地面の上で、僕の腕の中で。大病でも難病でもなかった。単なる風邪の延長だった。ただ僕たちには、金がなかったのだ。

話すまでもない、絵に描いたような不幸。退屈でありふれた物語の中で、僕たちはこの冷たい世界へ放り出された。

この手で彼女の亡骸を埋めたあの日。僕は世界の全てを恨んだ。そして世界の全てを受け入れた。それからは必死になって金を稼いだ。金のためならなんだってやった。失うものなんて何もなかった。僕にはもう、それ以外に何もなかった。

いつしか僕の周りには人が集まり、そして、大きな城が建った。

金は力であり、信頼であり、それは時に愛でさえあった。

砂の虚城の中心で、僕は人々へ呼びかける。

 

日頃の感謝を込め、僕個人から100名様に100万円【総額1億円のお年玉】を現金でプレゼントします。

 

その声は大きな波となり瞬く間に世界へ広がった。わずか数日で世界の記録を塗り替えてしまうほどの早さで。

人々は、熱狂していた。熱く、狂っていた。

金がそうさせたのか、それとも、最初からそうだったのか。ただ大きく肥大し続ける欲望の波の中心で、僕は酷く冷静だった。

 

金は、それを見る瞳によって姿を変える。

ある人々にとっては夢や希望であり、またある人々にとっては絶望であり、生であり死である。それは人類の全てであり、命であり、世界だった。

 

美しい、そう思った。

欲、夢、情、願…金は人々の心を写し輝く鏡だ。その輝きは、夜空に輝く星々の瞬きに近い。

無数の光が生まれては死に、死んでは生まれ、それを繰り返す。彼らが夜空に輝く無数の星々なのだとすれば、僕はその中でも一際大きく輝く月になろう。

それは些か自惚れが過ぎるだろうか。

 

あなたは本当に何もわかっていないのね

彼女は笑う。

その輝きは可能性の光

あなたが美しいと思うものは、人類

そして世界そのもの

お金はその輝きを写すための手段でしかないの

 

ああ、そうか

そうだったのか

 

長い、長い夢を見ているようだった

星々の輝きは音もなく煌めき

そして僕に問う

生きる意味

世界の価値

 

僕はもうすぐ月へ向かう。