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かきかたの本

書き方の練習

UFOを見た

UFOを見た、と思ったが、どうやらあれは飛行機だったらしい。

「こんな時代に、空を飛べる飛行機だなんて、馬鹿げてる。UFOの方がよっぽど現実的だぜ」

見知らぬ誰かの古いアルバムを炎に焚べながら、D.Dが言う。紙はよく燃える。分厚い束なら、より長く。今の俺たちにとっては、他人の思い出よりも暖をとる方が重要だ。

「いや、でもあれは確かに飛行機だったよ。翼があって、たぶんエンジンもついてた」

「だったらそいつは、翼とエンジンのついたUFOだろうよ」

屋根のない民家の瓦礫の中、かつて茶の間であったろう場所で焚き火を囲んでの団欒だ。D.Dの話では、世界は随分と昔に終わったらしい。俺が眠っている間、その崩壊を目の前で見てきた男だ。

「で、ケビン、そのUFOはどっちに向かって飛んでた?」

「ええと、電波塔の方に向かって飛んでったから、ここから見ると…東だ!」

東、か。古い地図を広げる。ここから東、60kmほど先に、軍の基地施設の跡地がある。中規模基地で、そこなら滑走路もあるはずだ。

「どうする」

「60kmか、道が無事なら歩きで3日ってところだな」

D.Dはそこまで言って、火から串焼きを取りそれを口に運ぶ。彼が捕まえてきたよくわからない生物を、生きたままテント用のペグに突き刺した物だ。丸焦げになりながらも手足をバタつかせるその生物を、D.Dは気にせず頭から食らう。

「あー、よく食えるね、そんな、なんというか、グロテスクなもの」

「お前の大好きな腐ったレーションよりましだ」

2人の会話を聞きながら、俺は仰向けに寝転がり、夜空の星を見上げる。屋根のない場所で眠るのは、随分と久しぶりな気がする。

「今夜は、星がよく見えるな」

俺が言うと、2人は会話を止め、同じように空を見上げる。

「ずっと昔、まだこの星に人間が生きていた頃、夜空に星はなかった」

「どういうこと?」

「地上が明るすぎたんだよ。人間は、闇を恐れていたからな」

D.Dがアルバムの束を火に投げ入れる。その拍子に、束から抜けた一枚の写真が俺の胸の上に落ちる。それは、かつてこの家に住んでいたであろう家族の集合写真だった。

「なあ、どうして世界は終わっちまったんだ」

「さあな、人間がそう望んだんだろうよ」

「彼らの言葉で言うなら“神の裁き”ってやつかな」

 「どっちだって変わらねえよ。都合の悪いことは全部神のせいにしちまう連中だ」

「神の裁き、か」

俺は、家族写真を焚き火に投げる。写真は、火の中で一瞬だけ明るく燃え、そして黒く消えていった。

「さあ、明日は朝から歩きだ。進路は東、宇宙人に会いに行くんだ、失礼の無いよう銃の準備はしておけよ」

「なあ、D.D、もし、あの飛行機に乗ってたのが僕ら以外の人間だったら、どうする?」

「……」

「ケビン、お前ももう寝ろ。今夜は俺が見張る」

「あ、ああ、わかったよ」

スコープ付きのボルトアクションライフル(D.D曰くまともに弾が飛ぶのが奇跡の骨董品らしい)を持ち、瓦礫の山を登る。

ずっと遠く、ドーム状の星空がどこまでも続いている。かつて人類が生きていた頃、夜は光に溢れていたらしい。だが、今が暗いわけじゃ無い。月と星の光で、遥か彼方の地平線の先まで見渡せる。

世界は、ずっと昔に終わったらしい。ある時、何かが起き、世界は瓦礫の山と化した。それまで、私欲にまみれた穢れた繁栄を謳歌していた人類は姿を消し、世界には俺たちしかいない。はずだった。

星空の下を、東へ向かう光が見える。一瞬、流星か火球かと思ったが、違う。もっと、意思を持った能動的な動きだ。スコープ越しに見ると、それは翼とエンジンを持った空を飛ぶ何か。その機械を飛ばすことが出来るのは、俺の知る限り人間だけだ。

「おい、ありゃあ……」

「ね、ほら、飛行機だよ飛行機!」

その夜、俺は2度目のUFOを見た。と、思ったが、どうやらあれは飛行機らしい。

「なあD.D、確かに世界は終わっちまったかもしれねぇが」

銃のスコープを下ろし、遠く東の果てへ目を向ける。

「人間は、きっとまだいる。この終わっちまった世界の中で、まだ生きている」