かきかたの本

書き方の練習

平成生まれ

「俺はこのまま、平成に残るつもりだよ」 真夏のように蒸し暑く、夕陽と月が同時に輝く空は不気味な程に蒼紅で、まるで世界がこのまま終わってしまうような、そんな夕暮れのことだった。 天皇陛下の生前退位が決定してからそう日も経たないというのに、あれ…

休息の待ち時間

今日、会社を休みます そう言った時、課長はいつも以上に驚いた顔をした。それもそのはずだ。今の部署に異動して2年半、俺が当日に会社を休んだことは一度も無い。それどころか、冠婚葬祭以外で有給休暇を取ったこともないのだ。 風邪を引いた日も、台風で車…

ドーヴァーの夜

ガウェイン卿が死んだ。 ドーヴァーの戦いは勝利に終わったが、その夜、宴が開かれることはなかった。進駐軍のキャンプでは、兵士たちも何かを察してか、皆一様に暗い表情でそれぞれに黙って火を囲んでいた。 その知らせを聞いたのは、ベディヴィア卿からだ…

ろくでなし、2人、防波堤にて

俺はきっと、何者にもなれずに死んでくんだろうな 最悪に心地の悪い蒸した空気の中、俺たちは雨上がりの夜空の下で、工場の煙突から吹き出す青い炎を眺めていた。 7月9日 いつもと変わらない、何もない日曜日 扇風機の前で、何度も読んだ漫画をもう一度読み…

悟りの書 2017.03.18

祖父の古い知り合いに、世界を旅しながらおかしな物を買い集める古物商がいる。 彼は様々な美術品を仕入れては世界の金持ちに売り歩き生計を立てているのだが、その仕事の中で、個人の日記や写真を好んで収集する癖がある男だった。曰く、リアルな人間の生き…

追伸、木星はもうすぐ春になります

木星の彼女から、一年ぶりにメールが届いた。 地球と木星の時差がどれくらいあるかなんてのは、よくわからない。ただ、ずっと遠くの星に、ずっと昔、今ここに存在する人々のためにこの地球から飛び立った人々が住んでいるのだと、そんな話をぼんやりと聞いた…

孤独、痴女求め、春夜を行く

昔、噂に聞く痴女を求め、夜な夜な街を彷徨い歩いていた時期があった。 社会人になって2年目の年。当時、倉庫の現場勤務であった俺は女性という存在とは無縁であり、若さ故の有り余る欲求を常に持て余していた。どうにかして、なんとかならないものか。日々…

味無しクッキー“アイヌより愛を込めて”

スーパーマーケットのバレンタイン特設コーナー。真剣な表情で、チョコの手作りキットを選んでいる制服姿の女学生が一人。口元に指を当て、何度も箱を取っては戻しを繰り返す。そんな光景を見ながら俺は、日本もまだまだ捨てたものではないな、と、そんなこ…

雪、無音、窓辺にて、豆を

最近、自分がつまらない人間になったと感じることが多い。それはこの、何の変化もない“平和”な世界に適応してしまっているから、なのかもしれない。 仕事を終え、いつものようにコンビニで弁当を買う。ふとレジ横に目をやると、半額ワゴンに積まれた節分で売…

失恋男はジルを撃つ

今日、お前の家でバイオハザードをするぞ。 そんな連絡が来たのは、久しぶりに雨の降った日曜日の朝のことだった。相手は、一つ年上の会社の先輩。詳しくは聞かなかったが、どうやら失恋したらしい。 前日の土曜日に、彼が女性と2人でイルミネーションを見に…

ラブ!いもうと倶楽部 vol.01

こんにちは 今週は、兄多忙のため、妹である私が代わりに記事を書くこととなりました。拙い文章とはなりますが、しばしお付き合いをお願いします。 なんちゃって 本当は、どうしてもこのブログに記事を書いてみたくて、何度も頼み込んで書かせてもらうことに…

すき焼きと、恋多き女

「鶏肉が、美味しいわ」 2日連続でこの冬の最低気温を記録した2連休。まだ少し雪が残る、日曜日の夜のことだ。俺は“恋多き女”と、すき焼きを食べていた。 自分で自分の人生を“恋多き人生”と呼ぶだけあり、これまでに関係を持った相手は150人以上らしい。ロウ…

剛力彩芽を忘れない

その日俺は、自分の死に方を考えていた。 別に、死にたいと思うほど辛いことがあったわけではない。ただ、退屈だったのだ。毎日、会社に行き、朝から晩まで面白くもない仕事をし、家に帰れば疲れて眠るだけの日々の繰り返し。目指すものも、守る者もなく、幸…

帰路

連休が終わる。俺は、何処へ帰るのだろうか。 この大型連休を利用し、数年ぶりに家族旅行へ行った。と、言っても、車で1時間ほどの距離のテーマパークであり、わざわざホテルを予約してまで行くものでもなかったのだが。姉夫婦と兄夫婦、それから子どもたち…

ニライカナイ 1

その日、晴天の空から雪が降った。 この冬の最低気温を記録したその日、俺は神戸空港で、掲示板に表示される赤い文字を見上げていた。沖縄行きの便は、本来の予定時刻を過ぎても尚、未定のまま何の動きも無しだ。いっそ、欠航となってくれた方がいいのだが。…

かきかたの本

生きることは、書くことと見つけたり。 師走の終わりは年の終わり。2016年が、もう終わる。今年最後の記事として、とっておきの長い記事を書いていたのだが、なんというか、このブログに書くにはあまりにも“ガチ”な内容となってしまったので、それは下書きの…

聖なる夜に処女は死ぬ

姫路行き新快速列車の中で、窓の外を流れる曇天模様の景色を見ながら俺は、そんなタイトルの物語を考えていた。 今日はクリスマスイヴ。明日はクリスマス。この二日間は多くの人々にとって“特別な日”だろう。そんな日になぜ俺は、普段なら乗ることのない電車…

さいたまのスポボブ

昔の女の話をしよう。 薄暗いバーのカウンターの隅で、ウィスキーを飲みながら。ジャズをBGMに、どこか遠くを見つめたりなんてしながら、さ。 俺はそういうことが“かっこよさ”だと思っている。思っているが、生憎、俺は酒が飲めないし、ジャズなんて聞く柄で…

ボーナスは妹払いで

会社のロッカーで着替える俺に、嬉しそうに話しかけてきたのは、いかにも人の良さそうな初老の男性だ。俺は彼のことを知っているが、彼のことを知らない。 彼とはロッカーが隣だが、顔を合わせることはほとんどない。部署も仕事も違うので、たまにどちらかが…

飯屋は風俗店に似ている

飯屋は風俗店に似ている。 祝日の午後20時。餃子の王将のカウンター席に一人座り、俺はふと、そんなことを思う。 今夜は、素敵な女性と食事をする予定だったのだが、訳あって俺は今、王将のカウンター席で左右をオッサンに囲まれながら、注文した料理が運ば…

チャーシューを最初に食べる人

日曜日の昼12時 ラーメン二国の店内は、カウンター席までほぼ満員に埋まるほど賑わっていた。 iPadを見ながらラーメンをすする中年男性と、作業服姿の若者の間のカウンターが一席空いているのを見つけ、俺はまっすぐにその席へと向かう。 醤油ラーメンもやし…

終電

アカシックというバンドの終電という曲に惚れ、ミニアルバムを買った。 終電で帰る、嫌われる前に その歌詞は、胸にグッとくる。vo理姫の歌い方や声が、より切なさを感じさせる。一生懸命に動きながら歌う女性は、本当に魅力的だ。 思えば、5年以上聴き続け…

Happy birthday to いずれ死にゆく者

いつからだろうか。 自分の誕生日が、一年の中で一番の特別な日ではなく、他の日と変わらない、ただ経過するだけの日となってしまったのは。 日曜日の昼下がり、カーテンを閉めた薄暗い部屋に、電子的な銃撃戦の音が響く。俺の放ったミサイルは狙いを大きく…

のらねこソクラテス

あいつは、小学校低学年の頃に出会ってからずっと、俺のことを見ている。信号機の上や、テーブルの下や、時には電車の吊り革にぶら下がりながら。いつも戯けながら俺を見て笑い、知ったような口を聞くのだ。退屈な野郎だ、と。 今夜は、俺の人生を変えた本の…

無人島に持って行くもの

無人島に一つだけ何か持っていけるとすれば、何を持って行きますか? 何度も聞いたことのある質問。しかし、それを投げかけてきたのは見知らぬ男だった。 三連休最終日の夜。明日からの仕事のことを考え、憂鬱な気分でコンビニへ向かっていた時のことだ。清…

君の名は

今、とても人気のあるらしい映画『君の名は』 俺も見てみたいのだけれども、みんな見てしまっているので、一緒に見にいく人がいない。一人で行けよと思われるかもしれないが、他の映画はともかくとして『君の名は』を一人で見にいくのは、どうだろう。一人で…

台風18号の日

昔から台風は好きなんですよ、ワクワクするじゃないですか。 仕事中、隣のデスクに向かって言うと、課長は退屈そうにPCの画面を見つめたまま短く一言、ガキじゃねえんだから、と言った。確かに、全国の配送に関わる我が部署では、交通障害を撒き散らしながら…

UFOを見た

UFOを見た、と思ったが、どうやらあれは飛行機だったらしい。 「こんな時代に、空を飛べる飛行機だなんて、馬鹿げてる。UFOの方がよっぽど現実的だぜ」 見知らぬ誰かの古いアルバムを炎に焚べながら、D.Dが言う。紙はよく燃える。分厚い束なら、より長く。今…

異世界の話の序章

あの日は、本当に暑かった。と言っても、夏しかないようなこの国では、この気温はごく日常的なもので、街を歩く人々は皆、暑さに顔をしかめることさえせず、ただそれぞれの目的のために歩いていた。タオルを持っている人間は俺だけで、そのことが余計に俺に…

信号機と夜

一体、どんな権利があってお前は、俺の歩みを妨げることが出来るんだ。 赤く光る歩行者信号に向けて、俺は言う。 何の権利もないさ、俺にはな。あんたが勝手に立ち止まっているだけだろう。 深夜2時の交差点。車の通りは全くない。 顔も知らねえようなどこか…