かきかたの本

書き方の練習

スカートの中の秘境

秘境

それは人里離れた山の奥深くの神秘的な湖であったり、砂漠の果てにある古の街の跡であったり、はたまた深海の底に眠る都市であったり。そこにはありのままの地球の姿を映した絶景と、太古の人類が残した秘宝があると言われていたりいなかったり。誰しもが一度は夢見、人生のうちにその場所を訪れたいと思うのではないだろうか。

はてさて、そんな風に世の人々を魅了してやまない秘境ではあるが、実は案外、我々のすぐ近くにも存在したりする。勘の良い方は表題を見て既にお気づきかもしれないが、そう、スカートの中である。ここで頭に“?”が浮かぶ人もいるかと思うが、考えてみてほしい。あなたはスカートの中にどんな世界が広がっているか、知っていますか?

スカートというのは、そう、一般的に女性が履いている下半身を覆う布製のあれである。女学生の制服として採用されているあれである。そしてその中には、秘境が広がっているに違いない。多くの人があの布製のヒラヒラの中に思いを馳せ、しかし辿り着いた人間は多くはない。そこを秘境と呼ぶには十分だろう。

現実を言うならば、あのヒラヒラの下には当然の如く、下半身と下着が隠されているだろう。それはそれで、非常に魅力的なものではあるが、しかし、本当にそうなのだろうか。あの魅惑のヒラヒラに覆われた瞬間、その空間は未知となる。その瞬間まで下半身と下着であったそれは、誰も到達したことのない新大陸となり、そしてその先に広がる深い森には神秘的な鍾乳洞があり、更にその奥深くには伝説の秘宝があるに違いない。そのことは、外から見ている我々はおろか、スカートを履いている本人でさえ意識していないだろう。まさか、自分の下半身が未知の秘境となっているなんて。

中でも、様々な悩みを抱え、めくるめく青春の時間を生きている女学生のスカートの中には、きっと宇宙が広がっているだろう。 勉強、部活、恋、友情、夢、将来。無数の星々はスカートという紺色の宇宙空間の中で、瞬き、消えては生まれ、形を変えて輝き続ける。その中で、唯一変わらず輝き続ける一際大きな星。あれは彼女自身の心を表しているのだろうか。

風が強くなってきた、今夜はここにテントを張って休むことにしよう。俺は森の中の少し開けた場所に荷物を降ろし、テントを組み、火を起こす。夜空には無数の星々が瞬き、消えては生まれを繰り返している。その星々の輝きを見て、ようやくここまで辿りついたのだと実感が湧いてきた。

俺たちが日々を生きているこの世界は、一人の女学生のスカートの中なのかもしれない。それは絶対にありえないと、確証を持って否定出来る人間は何処にもいないだろう。俺は、そう信じている。いや、そうだといいなと願っている。そんな世界なら、この退屈な日々がどれだけ素敵なものとなるだろうか。

空気に特有の湿気が含まれてきた。この調子なら、明日には目的地に辿り着けるだろう。そうして、この秘境での長い旅路は、ようやく終わる。ずっと思いを馳せていた場所に辿り着いたその時、俺は何を思うのだろうか。

さて、こんな風に思いを馳せるのも、今夜が最後となるだろう。

明日は早い、今夜はもう眠ることにしよう。